老眼:リング埋め「治す」 ピンホール効果で遠近にピント、レーシック手術と併用可能
老眼:リング埋め「治す」 ピンホール効果で遠近にピント、レーシック手術と併用可能
年を取るにつれ、だんだん近くのものが見えにくくなる老眼。日本人では平均して40歳代から、誰にでも訪れる目の老化現象だ。従来は「年だから仕方ない」「そろそろ老眼鏡が必要だ」となるだけだったが、最近、新しいアプローチで老眼を「治す」技術が現れ始めた。【奥野敦史】
「5年くらい前から暗いところで新聞が読みにくくなり、今は飛行機の機内で本が読めないんです」。東京都内でプロスポーツ選手のマネジメント会社を経営する神崎進司さん(51)は言う。趣味のゴルフでは今もボールの行方がしっかり見える。が、手元のスコアカードの文字が見にくい。「老眼鏡も使いますが目が疲れる。憂うつです」
老眼は目のレンズ、水晶体が硬くなって起きる。人間の目は水晶体の厚みを、それ自体の弾力とその周囲にある筋肉で変えて、ピントを合わせている。近くを見る時は、水晶体が自らの弾力で厚く膨らまねばならない。その弾力が失われ、特に近くにピントが合いにくいのが老眼だ。
対策は長らく老眼鏡のみ。最近は専用コンタクトレンズもある。一方、高周波の電流で角膜の形状を変え、レンズの屈折率を矯正するCK(コンダクティブ・ケラトプラスティー)やレーシック手術などの「老眼治療」も開発されてきた。CKは世界で10万例以上の症例がある。そこに新たに加わったのが「アキュフォーカスリング」という手法だ。国内には昨年導入された。
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直径1~2ミリほどの穴を通して周囲を見ると、老眼や近視の人もくっきりものが見える。「ピンホール効果」と言い、目の中に入る光が細くなると、より広い範囲にピントが合う作用。カメラの絞りを絞ると近景から遠景までピントが合うのも同じ原理だ。
アキュフォーカスリングは直径3・8ミリ、中央に直径1・6ミリの穴が開いた5円玉形の黒いリングを角膜に埋め込み、常時ピンホール効果を起こす治療法だ。05年、老眼治療法としてEU(欧州連合)の安全基準をクリアした。
手術は点眼薬で目に麻酔をかけた後、角膜の表面を高精度なレーザーでU字形にスライスし、厚さ約0・2ミリのポケットを作る。このポケットに、通常、片目だけリングを差し込む。
ポケットを少し大きくして角膜を円形にスライスすると、フラップ(ふた)が作れる。このフラップは近視などを治すレーシック手術で使う技術だ。レーシックの場合、フラップをめくって角膜の内部をレーザーで削り、屈折率を矯正する。手順が似ているため、レーシック手術とリングを併用することも可能だ。
神崎さんは6月末、国内でいち早くアキュフォーカスリングを取り入れた「みなとみらいアイクリニック」(横浜市)で手術を受けた。執刀は同クリニック手術顧問の坪田一男・慶応大教授(眼科学)。両目のレーシックと右目のリング挿入で、手術時間は約30分。術後「痛みは全然ないです」と話していた。
坪田教授によると、リングには、角膜への栄養を遮断しないよう微細な穴6400個が開けられている。またリングは手術後も専門医の手で外すことが可能。「フラップは数十年後でもめくることができ、リングも簡単にはがせます。効果が薄い、違和感が残る人は、簡単に元に戻せるのも利点です」と言う。
4月にリングを入れた会社員、宇治由紀子さん(50)は「パソコン画面も遠くの景色もきれいに見えて快適。目から20センチ先の名刺の文字もくっきり見えます」と言う。両眼視力は0・4から1・5に回復した。片目ずつ閉じると、リングを入れた左目は視野が若干暗い。しかし両目で見ると暗さを感じない。左右の目の情報が脳で統合、調整されたためで、片目にだけリングを入れるのはこのためだ。
宇治さんは術後約1カ月は視界が少し曇り、目がごろごろする違和感も感じた。またかなり暗い場所では視力向上の効果が少し落ちる。術後1週間の神崎さんは「曇った感覚があり、視力が劇的に改善した実感はない」と話した。一方で手術翌日に携帯電話の文字を小さく変更し、暗い場所も効果十分という人もいる。坪田教授は「効果に個人差はある。視力が回復するまで数日の人も、数カ月の人もいる」と説明する。
世界で約1000例実施されているが、国内の普及はこれからだ。自費診療で、同クリニックでの費用は30万~37万円。「ぜいたく品」と言えるが、平均30~40年間もつきあう老眼への対処法として注目を集めそうだ。
毎日新聞 2010年7月16日 東京朝刊
